yuki : 霜月
霜月





-名を呼ぶあなたの声-



 夜の帳が完全に落ちた窓の外からは、夏特有の虫たちの声が微かに聞こえてきていた。
 寝室の片隅に置かれたベッドの上。ふかふかと柔らかい枕を背に当て、手にした愛読書を読むカカシの姿を、ベッド側に置かれた読書灯がほんのりと照らしている。
 開け放たれたままの窓から時折吹き込む夜風は涼やかで、読書をするには最適な夜だ。
 出来れば愛読書を全冊読み返したい所だが、元々恋人であるイルカが風呂に入っている間だけと期限を決めて始めた読書だ。イルカが風呂から上がってくるまでにキリの良い所まで読み進めようとしていたカカシは、だが、頁を捲るその手をふと止めていた。愛読書に落としていた視線を寝室出入り口へと向けたカカシの首が小さく傾ぐ。
 長風呂なイルカには珍しく、もう風呂から上がったのだろう。カカシと同じく涼しげな浴衣に身を包み、下ろした黒髪から僅かに水滴を滴らせるイルカが、ベッドの上、立てた片膝の上で愛読書を広げるカカシをじっと見つめている。
 声も掛けず、動こうともしないイルカを不思議に思い、どうかしたのかと問おうとしたカカシは、だが、自分を見つめるイルカの漆黒の瞳に、滅多に見る事の出来ない劣情の焔が微かに浮かんでいる事に気付き、その顔にふと小さく苦笑を浮かべていた。
 誘いたいけれど、どうやって誘えば良いか分からない。
 そんな途方に暮れたような表情を浮かべているイルカが可愛らしい。
 手に持っていた愛読書をぱたんと閉じ、背後にある小さな棚へ愛読書を片付けるついでに、開け放たれていた窓を閉める。
「…おいで、イルカ先生」
 そうして自らの膝上をぽんぽんと叩くカカシがそっと名を呼ぶと、こくりと一つ喉を鳴らしたイルカは、カカシのその言葉に操られたかのようにゆっくりと、ベッドの上で待つカカシの膝上へと乗って来てくれた。
 
 
 
 
 腕の中に捕らえたイルカの身体が熱い。
 カカシの前にその全てを晒す事になるこの体勢が恥ずかしいのだろう。着ていた浴衣を大きく肌蹴させられたイルカの足が艶かしく動き、その素足が真っ白なシーツに幾重もの皺を成していく。
 それを視界の端に捉え、ふと小さく笑みを浮かべるカカシは、目の前にある可愛らしい胸の飾りにゆっくりと唇を寄せた。
「…っ」
 ちゅっと軽い水音を立ててそこに口付けると、これからされる事を想像し、期待したのだろう。カカシの頭上でイルカが小さく息を呑む気配がし、小さかった突起がぷっくりと膨らんでいく。
 素直な反応を返すイルカの身体が愛おしい。たった一度口付けただけでツンと尖り、その存在を主張し始めた突起を見つめるカカシの深蒼の瞳が、ふと柔らかく細められる。
(期待には応えなきゃね…)
 羞恥と緊張にか、僅かに震えるイルカのしっとりと汗ばむ太腿を撫で擦る。
 そうしながら舌先を伸ばしたカカシは、イルカの小さな突起を下から掬い上げるようにつつと舐め上げた。ほぼ同時に、たっぷりの潤滑液で濡らしておいた指先をイルカの秘所へと押し当てる。
「ん…っ、アッ」
 頭上から降ってくるイルカの甘い吐息と、指を埋め込んだ内部が熱い。
 舌先でイルカの乳首を嬲るカカシは、節ばった指をイルカの奥へ奥へと突き入れながら、その視線を頭上に居るイルカへと向ける。
(…イイ顔)
 痛みは感じていないのだろう。下ろした黒髪を乱すイルカの顔は上気し、カカシを見下ろす漆黒の瞳に浮かぶ劣情の焔は大きく育ち揺らいでいた。
「…カカシ、さん…っ」
 肩を掴むイルカの手に力が込められ、強請るように小さく名を呼ばれたカカシは、イルカを見上げるその顔にふと卑猥な笑みを浮かべて見せた。
「…ココ?」
「ひァ…!」
 咥えていた乳首を解放し、埋めた指先をイルカの快楽点へと押し当てる。
 ぷっくりと膨らむそこを強く擦ると、強い悦楽を得たらしいイルカの口から甲高い嬌声が零れ、その内部がきゅうきゅうと嬉しそうに収縮した。
 指に絡み付いてくる皮肉を引き剥がすようにずるりと引き抜き、快楽点を掠めるように根元まで埋める。
 卑猥な水音を立てながら繰り返される抽挿は、イルカを傷付けたくないと強く思うカカシの手によって、殊更ゆっくりと行われた。
「んぁっ、ゃあ…っ」
 カカシの逞しい雄を受け入れる事に慣れて来たイルカには、その動きが焦らされているように感じるのだろう。息を乱し始めたイルカが、嫌だと言うように首を振りながら、カカシの首筋へと縋り付いて来る。
 だが、イルカの秘孔に埋め込んでいるカカシの指は、まだたったの一本だ。初めの頃に比べれば柔らかくはあるが、そこはまだカカシを受け入れるには硬い。
「もうちょっとガマンして。ね…?」
 抱き付くイルカの背を撫で擦りながら、ギリギリまで引き抜いた指先にもう一本の指を添え、カカシは二本の指をイルカの中へ埋めていく。
 内壁を掻き、根元まで埋めた指をぐるりと回し拡げると、風呂上りだからだろうか。イルカの秘孔はすぐに柔らかく解れていった。
「…シさ…っ、カカ…っ」
 カカシの首筋に縋り付いたままのイルカの息が荒い。艶かしい嬌声の合間、イルカの小さな声がカカシの名を何度も呼ぶ。
 指先を蠢かすたび肩に立てられる爪と、早くと急かすようなその声に堪らなく煽られる。
 窓が閉め切られた薄暗い寝室内に熱が篭っていき、きつく眉根を寄せ、「もうちょっと」と自分に言い聞かせるようにそう告げるカカシの額に汗が滲んでいく。
「カカ…さ…っ、もぅ…っ」
 そんなカカシへ、もう我慢出来ないと言うように押し付けられるイルカの腰。
「…っ」
 互いの身体に挟まれる形になったイルカの濡れる先端がぐちゅと卑猥な水音を立て、それを聞いた途端、暴れようとする本能を辛うじて抑え付けていたカカシの理性が吹き飛んだ。
「んぁ…ッ!」
 イルカの秘孔に根元まで埋めていた指をずるりと引き抜いたカカシの手が、戦慄くイルカの腰を掴み締める。そうして僅かに浮かせたイルカの臀部に宛がわれたのは、支えずとも天を突く程に猛るカカシの先端。
「アアア…ッ!」
 挿入は少々強引だった。しとどに濡れる秘所へと狙いを定めたそれが、大きく背を逸らすイルカの口から高い嬌声を引き出しながら、柔らかく解れた秘所へズズと埋め込まれていく。
(…キ、ツ…っ)
 気を抜けばすぐに持って行かれそうだ。
 奥歯をぐっと噛み締めてそれに耐えながら、カカシは掴んだままだったイルカの腰をより引き寄せる。
「…ゴメ…っ、大、丈夫…?」
 その全てを埋め終え、今更ながらに理性を取り戻したカカシがそう訊ねると、頭上に居るイルカから小さな笑みが返って来た。嬉しそうなその笑みに束の間見惚れてしまう。
「…だ…丈夫、です…っ」
 急激に貫かれ痛むのだろう。あまり大丈夫そうではなかったが、そう告げられたカカシの顔にふと小さく苦笑が浮かび、イルカを見上げるカカシの深蒼の瞳が愛おしそうに細められていく。
(…敵わないねぇ)
 イルカをいくら愛しても愛し足りないとカカシが思うのはこんな時だ。
「…イルカ先生」
 ありったけの愛しさを込めて名を呼ぶと、肩を掴んでいたイルカの手が離れ、温かなその両手が見上げるカカシの頬へとそっと添えられる。
 そうして降って来た口付けの後に小さく呼ばれた自分の名は、カカシの耳に殊更甘く響いた。




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