
しんのすけ : JOKER
-ドリーマー《序章》-
『おい。起きろ、カカシ』
『起きて、カカシ』
気持ち良く眠っているカカシを起こそうとする声が聞こえて来た。
「う〜〜〜ん…もぉなぁに〜…くぷ〜〜〜…」
寝惚けながら寝返りを打ったその時。
『起きろって言ってるだろ!』
甲高い怒声と共に頭にガツン! と衝撃が走った。
「〜〜〜ッ!」
余りの痛さにカカシは飛び起きた。
「な、ナニ…?」
きょろきょろと辺りを見回してみたが薄暗い部屋の中には誰も居ない。
『ごっ、ゴメンねカカシ。大丈夫?』
その声は頭上から聞こえた。
バッ! と見上げたカカシの目が点になる。
「な、何だ〜!」
いつもは冷静な筈のカカシの声が上擦った…何故なら。
視線の先の天井近くに、ホバリングする様に宙に浮いている生き物が居たからだ。
…然も、二体。
『さっさと起きないコイツが悪い』
『そうじゃナイでショ! 乱暴はダメだって言ったのに!』
やいのやいのと言い合っていたのは…真っ白な服と真っ黒な服を着た子供だった。
更には、何故かしら二人共が子供の頃のカカシ―――丁度中忍になった頃の―――の姿にそっくりなのだ。
…落ち着け〜、落ち着けオレ。これは夢だ…夢に違いないッ!
「キミ達、若しかしなくっても天使と悪魔、な訳?」
冷静を装いつつカカシが尋ねると。
『ん、まあそんなトコ?』
そう返したのは黒服を着たちびカカシである。
…目覚まし時計を掴んでいる所を鑑みるに、カカシを強かにど突いたのは如何やらこいつらしい。
『ちょっと! 幾らなんでも其れは端折り過ぎだヨ!』
そう言って相方? にツッコミを入れているのは白服を着たちびカカシだった。
…ううう、マジでアタマが内外痛い…。痛覚があるって事はやっぱ夢じゃない訳? けど何なのヨ〜コレ? オレ、とうとう壊れちゃったの?
はあ、とカカシが溜息を吐くと。
『それは違うヨ、カカシ。オレ達は夢の産物じゃないし、キミは壊れてなんかいない』
『だな。一応正常だヨ、今の処は』
「えええ!」
…こっ、コイツら…オレの心の中を読み取ってるぅ!
目の前のちびちびカカシーズには読心能力があるのか、カカシが思った事に対し正確に応答して来た。その事実にカカシはどこぞの名画も真っ青な程の表情になってしまった。
こうなると流石の男前も台無しである。
『一応とか言ったらカカシが混乱しちゃうじゃない! ちょっとキミは黙ってて!』
『…もごっ…』
白服カカシにぐいぐいと口元を押さえられた黒服カカシが不貞腐れた。
「…で。キミ達の正体は一体何なの?」
少し落ち着きを取り戻したカカシが尋ねると、ふよふよと浮いていた二人は床に足を付けると徐に自己紹介を始めた。
『初めまして! オレの名前は白カカシ。キミの理性を司るキミの中の一部なんだ。オレの事はシロって呼んでね。で、コッチの黒い奴が…』
『オレは黒カカシ。アンタの邪で狡い部分を担当してる』
『また適当に言う! こっちは黒カカシと言って、キミの本能を司るキミの中の一部なの。コイツの事はクロって呼んでね。もう、自分の説明位自分でしなきゃダメじゃないかクロ!』
『え〜? 邪だから真っ黒なカッコなんじゃないの〜?』
『茶化すのストップ!』
『へーへー』
「あ、あのさ。ってコトは、二人共元はオレから派生してるんだよネ? …まさかオレ、精神的に大分マズい事になっちゃってるとか…?」
だ〜るだるな生返事をするクロと其れに突っ込むシロをぼんやりと眺めていたカカシが素朴な疑問を口にすると。
『う、ううん、そんなのじゃ無いよ。病気でも何でも無いから其処は安心してネ』
慌ててシロは否定したのだが。
『はあ? マズい事になってるからオレ達が具現化したんじゃないのサ〜』
クロはいともあっさり肯定してしまった。
「えええ! やっぱそ〜なの?」
『やっぱって事は、アンタ自身自覚してる事があるんだよな?』
そう言ってクロはシロを一瞥した。
一方のシロはしょぼんと項垂れてしまった。
『そんなにしょぼくれるなヨ〜シロ』
『だって…自覚してたって事はホントに苦しんでたって事なんだよ?』
『だから何とか状況を打破する為にオレ達が出て来たんだ。予定通りに審査して安定させなきゃな。お前まさか、今更反対とか言うなヨ?』
『力になってあげたいのはオレも同じだヨ! だけど…』
『判ってるならいざ実践! 健全なオトナのオトコなら恋愛対象に慾を求めるのは致し方の無い事なんだし〜』
『けどっ! だからってあの人を巻き込んじゃうなんて、やっぱりそんなの駄目だよ!』
…審査? あの人? あの人って、まさか…。
「ちょ、ちょっと待ちなヨ二人共〜」
目の前で言い争う二人をカカシはベリッと引き剥がした。
「この侭じゃオレがど〜にかなるかもってのは、何となく判る」
確かにここ数日、カカシは悩んでいたのだから。
「…で、質問。お前達の言う審査ってナニ? 『あの人』って一体誰の事? 其の人を巻き込むって如何云う意味?」
何と無く判っていながらも敢えて問うカカシに、二人は暫し顔を見合わせると。
『カカシ。此処が運命の分かれ道だヨ』
シロふわりと笑い。
『だから成る丈落着いて対処しろ。いいな?』
クロは此処に来て初めての真剣な面持ちで、其々にカカシの掌を握り込み色違いの瞳を見返して来た。
「あ、ああ…判った」
有無を言わさぬ二人の態度にやや仰け反りながらカカシが返すと、シロがごそごそと服のポケットから何かを引っ張り出して来た。
『ねえカカシ。これが何だか判る?』
そう言ってシロがカカシに差し出したモノ…それは。
「…タロットカード?」
『せ〜か〜い! 正確には大アルカナだけどネ〜』
何時ぞやのカカシの真似をしながらクロが指摘する。
「って、コレってばこの間の任務の時に報酬のおまけで貰ったヤツじゃない。ちゃんと封印して片付けた筈なのに…」
つい先日の事。
カカシは、護衛任務に就いていた旅団を率いる老婆にこのカードを貰ってくれと頼まれた。
使い込まれた風情と少なからず感じる或る種の波動に断ろうとしたのだが老婆は頑として聞き入れず、カカシは渋々カードを引き取ったのだ。
『一々だなぁもう。審査に使うだけだし、別に誰のものでもイイじゃない』
「イイ訳あるか〜! こんな怪しいもの使いたくないヨ!」
『ふ〜〜〜ん。…アンタ、若しかしなくっても怖いのか?』
「はあ?」
『怖いんだ! このヘタレ男〜!』
ぷくくっと嘲笑うクロにカチンと来たカカシは。
「何だとコラッ! よーっし上等だ! 受けて立とうじゃないの!」
と深謀無き侭挑発に乗ってしまった。
『今からオレ達二人が此れをシャッフルする。揃えたらオレ達が一枚ずつ山から取って行く。アンタは好きな処でストップを掛けろ。其れでアンタの今後が決まる』
「はああ? 今後が決まるってソレ如何云うコトなんだヨ〜!」
『それじゃあ始めるね!』
慌てるカカシを気にも留めず、ちびカカシ達は古びたタロットカードを厳かに混ぜ始めた。
…あ〜もう聞いちゃいないヨ…ホ〜ント一体何なのかねぇ? 全てが予測不能だわ、はあ…。
そんなこんなでカカシが思いあぐねている内にカードは綺麗に揃えられてちょこんと目の前に差し出された。
『準備完了! えーっと、一枚ずつ引くんだね?』
『そうそう。で、カカシ。アンタは此処だ〜って思った所で止めるんだ』
「ハイハイ。付き合えばイイんでショ? 付き合えば〜…。はあ…」
カカシの溜息を合図に二人は一枚ずつカードを引き始めた。
カードの山に交互に手を置き、止める声が掛らないのを確認しては、山の隣へと積んでゆく。
そして山の半分を過ぎた時。
「…ストップ」
カカシがぼそりと呟いた
丁度カードの山の上にシロの手が掛っている時の事だった。
『此れでいいの?』
「ああ」
カカシの諾意にシロが札を返すと其処に現れたのは。
『…悪魔の…逆位置………うわあッ!』
「どわあッ!」
途端、カカシとシロはその場から弾き飛ばされた。
ボフン! とクロの周囲に煙が巻き起こる。
「何だ! 何が起きてる!」
ゴホゴホと咳き込みながらカカシはシロを抱き上げた。
『彼が…クロが…!』
シロは声を震わせ、カカシにしがみ付いて来た。
「ちょっと落ち着いて! …アイツが如何したって言うの?」
明らかに様子がおかしくなったシロを案じたカカシがそっと声を掛けた其の時。
『クロだとかアイツだとか、ホ〜ント五月蠅いねぇ』
「なっ!」
『!』
煙の中からした声は、カカシ自身の声だった…然も。
―――消えた煙の中から現れたのは、暗部服姿の青年カカシだった―――。
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