
けいそう。 : も
-不治の病-
「あぁっ! ぅあっ…!」
普段の姿からは想像もつかない艶を帯びた表情で、嬌声を上げる人。
その胸に触れるだけで身体を惹くつかせて喘ぐ。
甘い吐息を漏らす口は赤く染まって、無意識にか卑猥な動きで舌が唇を舐め取った。
この下に、この人の命がある。
自分の欲望で貫いた熱い身体は、このまま少しだけ…そうほんの少しだけ力をいれるだけで冷たいただの物に変わる。
人間なんてそんなものだ。
いくら偉かろうが若かろうが関係なく…簡単にあっさりと終わりを迎える。
それを見ることにも、それを自分が与えることにも抵抗などなかった。
それをずっと当たり前だと思ってきたのに。
…この人がそうなるかもしれない明日を、狂いそうなほど恐れている。
「んんっ! …ふぁ…っ!」
乱暴に口付ければ鼻にかかった声が耳をくすぐってくれる。
戸惑うように逃げる舌を捕らえるように絡ませて、じわじわと這い上がってくる恐怖と快感に身震いした。
これを噛み切ったのもいた。
のた打ち回りながら肉塊に変わるのもいた。
そうだ。あんなにも簡単に壊れてしまうのに、どうしてこんなに大切なんだろう?
二度と、あんな思いはしたくなかったのに。
するりと鍛えられて引き締まった腹を、細くはないが触り心地のいい腰をなで、肝心の部分には触れず焦らすように太腿に滑らせて…。
こうやって俺に急所全部を明け渡すこの人が震えるのを見ていた。
…魅入られるように。
ひくひくと震える体は絶頂の予兆を知らせてくれる。本人と同じく素直な体だ。
同性同士など初めてだったはずなのに、あっという間にこの手の施した愛撫を覚え、快感を広い、俺を誘う。
「ぁ…!」
か細い声。
なにかを堪えるように寄せられた眉と潤んだ瞳。
ぐっと突き上げた時に締め付ける熱い肉。
自覚の無い媚態で俺を誘うくせにいつだってどこまでもキレイな人。
これを全部俺のモノにできたらなんて思ってしまったのは…。
「…他所ごと、考えてる暇あったら、さっさと…っ!」
良く通る声で生徒に言うみたいに、絶対に生徒には言わない卑猥な行為をせっつかれた。
「アンタは、俺のモノだよね?」
「いぁっ!」
ゆるりと腰を回すと、俺の背に盛大な引っかき傷を付けてくれた。
短く切りそろえられた爪でも、僅かに抉られる皮膚の感触。
それすらも快感につながるのだから、どれだけこの人に溺れているかわかろうと言う物だ。
絶え間なく与えられ続ける過ぎた快感に堪えきれなかったか、それとも意趣返しか。
どっちでもいい。
…その視線にも、声にも、ひりつく背の僅かな痛みにも…全てに欲望を煽られるだけだから。
「アンタが! 俺のモノなんだよ! いいから…ぁっ! は、やく…しろ!」
男らしい所有欲をあられもない格好で示して、ぎゅっと腰に回した足で締め付けて次を強請る。
そうだ。いつだってこうやって捕らえられたままだ。
一目見て訳がわからなくなるくらい惹かれて目が離せなくて…。
「アンタ、俺のために生まれてきたんだから、勝手に死んじゃだめですよ?」
それでこんなこと言われたら、手を伸ばさずにはいられなかった。
傷だらけの俺に笑いかける自分こそ、俺よりずっと傷だらけだったくせに。
「ん。いっしょに、いこ?」
いくなら一緒がイイ。
…まるでくだらない冗談みたいにホントの意味を隠してそう囁くと、挑発的な瞳に射返された。
「うだうだ考えるより…俺に、溺れろ」
うん。そうだね。いつだってこの人は俺を引きずり上げてくれる。
それからはもうタガが外れたように欲望をぶつけて、白く白く快楽に溺れたい意識が溶けてしまいそうになるまで混ざり合っていた。
*****
消して細くない男の体でも壊してしまうんじゃないかってほど攻め立てて、今は深く眠っている身体を抱き寄せた。
加減なんてできなかった。それにこの人もソレを望んでいなかった。
俺をその全てを受け止めてくれると分かっていたからそれに甘えて、そうしてこの人も行為に溺れる俺を求めてくれた。
この人を抱いているのは俺だ。
だが求めれば抱きしめ返して挑発的に笑うこの人に、俺はきっと支配されている。
お互いに獣染みた悦びに浸りながら、お互いだけ見つめて。
世界が一瞬だけ自分とこの愛しい人だけになる瞬間が好きだ。
忍である己を忘れ、欲望に流されてそれだけに溺れるなど…それはとてつもなく恐ろしいことであるはずなのに。
痛みも恐怖も泣くソレに浸りたいと思ってしまうのは…全部きっとこの人のせいだ。
すーすーと規則正しい寝息を立てて、無防備に寝こけるこの愛しい人の。
「覚悟、してね?」
もう絶対に手放せないから。
その言葉に返事なんて期待していなかったのに。
「アンタ、こそ…」
なんて掠れ声で返ってきた答えに胸がときめいた。
「あとで寝ぼけてたなんて言っても知らないよ…?」
抱き寄せた体にもう一度キスを落とし、目覚めたらまたイヤって程喘がせてやろうと思った。
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