
飛燕 : 宵の酔人
-愛されたぶんだけ強く-
シトシトと鬱陶しい雨が幾日も降り続いていた。同僚たちとは、梅雨だから仕方がないよなと苦笑するのが挨拶代わりになっている。
イルカはアカデミーの窓から、見るともなく灰色の景色を眺めていた。
受付所に入るのは夕刻から。少しだけ空いた時間を、誰も居ない静かな教室で過ごすのが好きだ。
ほとんど人が来ることのない放課後の教室ならば、ぼんやりと物思いに耽っていても、誰にも見咎められることはない。
ちょうどこの雨が降り出した日の明け方。カカシは任務に出た。
少しばかり、長く里を離れなければならないと言って、身体中のあちこちに紅い刻印を散らしていった。
『綺麗にマーキング出来たでしょ?』
カカシは色違いの瞳を笑み細めつつそう言って、自らが刻んだ紅い花を指先でなぞっていた。
アンダーの下。肌に残されたその痕も、日に日に薄れてゆく。じきに跡形もなく消え失せるだろう。それが少し淋しい。ずっと消えなければいいのにと思う。
カカシはまだしばらく帰って来ない。帰還がいつになるかもわからない。
イルカに出来るのはただ、戻って来るカカシを笑顔で迎える為に、里で待つことだけ。
はじめから覚悟していたこと。どれほど愛そうとも、カカシのすべてを縛ることは出来ない。
イルカが愛した男は、この里の至宝。その命と存在は、里に握られている。
忍である以上、当然の宿命ではあるが、カカシはその中でも最も重い荷を背負う者の一人だ。
カカシ本人も自身の役割と存在意義を自覚し尽くしている。
状況に応じ、瞬時に最善を選択する決断力で、いつか自分の身を犠牲にするかもしれない危うさが怖い。
遺される痛みは、互いに嫌と言うほど知っている。だから、不確定な未来さえ恐れてしまう。
褥で睦み合う刹那。何度離したくないと思っただろう? 隙間なく身体を繋げた瞬間が永遠になればいいと願ってしまうほどに。
カカシの質量で体内を満たされ、少しの苦しさと、強烈な快楽に翻弄されながら、いつも心で叫んでいた。
『愛している。だから、絶対に置いていかないで』
そんなイルカの声無き願いに、たぶんカカシも気付いているのだ。
イルカの心が不安に震える度に、抱き締めるカカシの腕の力は強くなり。
そして、立ち向かう先で待つ危険が大きければ大きいほど、激しく執拗にイルカを揺さぶってゆく。
この任務の出立前夜もそうだった。
早々に灯を消した寝室でどちらからともなく交わした口づけ。
触れては離れ、また啄んで。軽い口づけを繰り返しながらベッドに倒れ込んだ。
口づけを深めながら、衣服を剥ぎ取られ、風呂上がりのしっとりとした肌を撫であげられる。
「ンッ…ァ…ッ」
指先が胸の突起の先端を掠めると、敏感なイルカはピクリと身体を震わせ抑えがちな声を漏らす。
「声、我慢しないで聞かせて? ま、今に抑えてなんかいられなくなるけどね」
イルカを煽る囁きを掛けながら、カカシはその手を下に伸ばした。
カカシに教えられた快楽に慣れた身体が、ヒクヒクと期待に震える。
「可愛いね、イルカ先生」
甘やかな声音が羞恥をも溶かしてしまいそうだ。巧みな愛撫でイルカの熱は急激に膨らむ。
張り詰めて上向いたイルカの雄を、カカシはためらいもなく咥え口淫を施す。
舌と唇と…そして柔肌をまさぐる指先と。イルカの身体を知り尽くしたカカシが与えてくれる悦楽に身体は正直だった。
「好きなだけイっていいよ」
一瞬だけ顔を上げたカカシはそう言ってからまたイルカを攻めたてる。一度や二度は当たり前とばかりに華液を放たされ、理性を剥ぎ取られてゆく。
「アッ…か、かし…さ…も、ムリ…ッ」
立て続けに与えられる鋭敏な刺激。狂ってしまいそうなほどの快楽に悶え喘ぐイルカの内部はもう、トロトロに潤んでいた。
「ムリなんて言えてるうちはまだまだ余裕でしょ? 気付いてないの? イルカ先生は壊れるくらい気持ち良くなると、もっと!って可愛く強請るんだから」
そうなるまで可愛がってあげる。酷く淫靡な低い声を吹き込みながらカカシは柔らかな耳朶を甘く噛んだ。
「ハァ…んっ…やだ…おかしく…なるぅっ…ンッ」
微かに残る自我で抗おうとしても、それはもう風前の灯火。
凶器のように猛る熱欲を突き挿され、先端でズンと快楽点を突かれると、イルカは大きく背を撓らせた。
「ほらココ。死ぬほどイイでしょ? ココを突かれるの好きだよね?」
理性なんて手放してよ? そしたら『もっとちょうだい。もっと気持ちヨくして』って言えるよね?
淫猥さを極めた囁きに、精神を浸蝕されてゆく。
「あっあっあぁ…ダ、め…イっちゃ…」
上向いた雄がドクリと脈打ち、下肢が痙攣する。今にも弾けそうだというその瞬間。突然根元をキュッと握りこまれた。
「アァ…やぁ、だめ、くるし…イかせ…てぇ」
目尻に涙を溜め、縋り啼くイルカを見下ろすカカシが、にやりと意地悪な笑みを浮かべた。
「さっき何度もイかせてあげたでしょ? 今度はちょっと我慢してね」
寸前で我慢しろなんて無茶だ。そんな抗議のつもりで、イルカはフルフルと首を振った。
「我慢できないの? ならイってもいいけど、その分ペナルティーが付きますよ」
「ど、んな…?」
何を要求されるのだろうと、身構えたイルカが掠れた声で小さく問う。
「中がオレのでいっぱいになるまで、抜いてあげない」
そう答えたカカシは浮かべていた笑みを深めると、イルカの性器を解放した。そして激しい律動を再開する。
「アァー、あ…ぅん…ンッ」
高い嬌声を響かせてイルカはまた白濁を放つ。同時にカカシもイルカの体内に精を注ぎこんだのだが、達してもなお、カカシの猛りは質量を失わない。
視界が霞み、意識も混沌とする。だがカカシはイルカから出てゆく素振りをみせない。ならば徹底的に抱きつぶしてくれたらいい。
「続けて…もっと…まだ、いっぱいになってない」
呟いてイルカは、意図して内壁を締め上げた。
「挑戦的で可愛いおねだり。ご期待にはちゃあんと応えてあげますよ」
まだまだ余裕たっぷりな口調で言ったカカシが、腰をゆっくりとひいてから一気に最奥を穿つ。
カカシが動くたび淫らな水音が立つ。しかしイルカの唇からは、それを掻き消すほど高い嬌声が絶え間なく上がる。
霞む思考の片隅で、イルカは思っていた。知っているこれはカカシの優しさ。
見送る淋しさにイルカが心を痛めぬよう、夢も見ないほどの眠りに落とす為の手段。
泣きそうな顔で見送りたくはなくて、カカシの優しさに甘えているイルカは狡い。
(カカシさん、ごめんなさい。行ってらっしゃい。あなたの無事を祈っています)
強く願いを唱えながら、吸い込まれるようにイルカの意識は墜ちていった。
雨はまだ降り続いている。でも、垂れ籠める雨雲を突き抜けた彼方はいつも青空。
そして、その空は恋しい人の頭上の空と繋がっている。
ねぇ? カカシさん。今はあなたに甘えてばかりだけれど、俺もきっと強くなります。
あなたを癒せるくらい。あなたを支えてゆけるくらい心を強くして、遠い遠い未来にも、あなたの隣りで笑っていたい。
ずっと一緒にいて下さいね。
カカシの心に届くよう。願いを込めた想いを放ち、イルカは空に向かって笑みを浮かべた。
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